こんばんは。

今日は労働審判制度において代理人弁護士が求められる役割について書いてみます。

労働審判という制度は、先日、労働審判制度のメリット・デメリットという記事でも書いたとおり、きわめて乱暴に言ってしまうと、民事訴訟と民事調停を折衷したような制度です。

簡易・迅速を旨とし、かつ調停による最終解決を目指す制度でありながら、単なる話し合いによる合意形成の場ではなく、裁判所が証拠によって事実認定をし、その事実認定に基づいて調停をまとめようとしてくれるため、権利義務関係に即した(=訴訟の結論に近い)解決が期待できるというところに、労働審判手続の特徴があります。

労働審判は、原則3回まで

の期日で終えることとされており、かつ、実務上の運用としては、

第1回目の期日で事実関係の審理は全て終えてしまって、第2回目以降は、第1回で固まった事実関係を前提として、調停に向けた話し合いを行う

という取扱が、完全に定着しています。

つまり、先に労働審判は訴訟と調停を折衷したような制度だと述べましたが、そのうちの訴訟に相当する部分は、原則的に第1回期日で終わってしまうわけです。

そのため

労働審判は実質1回勝負である

というのが、労働審判に携わる弁護士の共通認識となっています。

労働審判が1回勝負であるということが、当事者及び当事者の代理人弁護士にとって持つ意味は

第1回期日までの限られた時間で、全ての主張と証拠を出し尽くさねばならない

ということです。

通常の民事訴訟は、

まず原告が訴状で最低限の主張を出す

      ↓

被告が答弁書で訴状に反論した後に第1回期日

      ↓

原告が答弁書に準備書面で再反論した後に第2回期日

      ↓

被告が原告の準備書面に準備書面で再々反論した後に第3回期日

      ↓

    以下、同様

といった具合に、ターン制で何回も期日を重ねてゆくのがスタンダードな進行です。

それに対して労働審判においては、

申立人側は労働審判を申し立てる時点で、相手方の反論まで予想し、それを潰す再反論と、それらの主張を裏付ける証拠まで揃えなければならず

逆に相手方側は、答弁書を出す時点で、申立人の主張を潰しきるだけの反論と証拠を揃えなければならない

ということになるので、両当事者の第1回期日前の準備は、非常に大変な作業となるわけです。

このような準備を素人がやるのはきわめて困難であることから、裁判官の中には

労働審判は可能な限り代理人弁護士を付けるべきであり、本人申立は望ましくない」

との意見を有する方もいるようです。

労働審判は簡易で利用しやすい手続のはずなのに弁護士必須というのはちょっと変な気もしますが、実際上弁護士なしで労働審判をやるのは訴訟以上に容易でないと思われるため、私も上記の意見に賛成です。

このように、労働審判という制度は、

第1回期日前に、当事者(普通は代理人の弁護士)が、できる限りの準備をきちんとしてくることを前提にして初めて回る制度

という面があります。

これを別の角度から言うと、

多忙その他の理由からそれだけの準備ができない弁護士は、依頼者からお金をもらって労働審判の代理業務を受任すべきではない

ということです。

しかし、現実には、労働審判法の趣旨を理解せず、ろくすっぽ準備もしないで第1回期日に臨み、第1回期日を空転させてしまうような弁護士も珍しくありません。

通常の訴訟ならば、第1回期日までに十分な準備ができなくても、その後頑張ればどうにか取り返しがつきますが、労働審判でこれをやらかすと致命的であり、普通にやっていれば勝てた事件でも負けてしまうということになりかねません。

まあ、そういうしょぼい訴訟活動をする弁護士が敵の代理人についてくれると、こちらは楽でいいのですが、その弁護士を信頼して依頼している相手方本人が気の毒だなと同情してしまう部分もあり、心中複雑です。

皆様が労働紛争に直面し、労働審判手続を利用するという事態になった場合には、弁護士選びは慎重にされるようお勧めいたします。

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