運送業は,違法なサービス残業が横行している業界の一つです。トラック運転手の場合,毎日15時間働いているなどという人も,決して珍しくないようです。

トラック運転手の残業代請求については,私は複数取り扱ったことがありますが,比較的取り組みやすい案件であるという印象を持っています。

なぜかというと,法令上,車両総重量8トン以上又は最大積載量5トン以上の車両については,タコグラフ(運行記録計)の装着が義務付けられており,かつ,タコグラフによって記録された運行記録の保管義務もあるからです(貨物自動車運送事業輸送安全規則9条1号)。

そのため,貨物自動車運送事業の場合,もし使用者側がきちんとタイムカード等を用いて勤怠管理をしていなくても(していない場合が多いです),少なくともトラックが会社の車庫等を出発して走行を始めてから,走行を終えて帰社するまでの間については,拘束時間が正確に記録されていることになるわけです。

そうすると,残る問題は,タコグラフ上トラックが停車していた時間に何をしていたか,ということになってきます。

トラックといえども拘束時間中ずっと走っているわけではないので,積み下ろし,休憩等で停まっている時間が当然あるわけですね。

この停車時間につき,乗務員に「積み」「下ろし」「休憩」等と申告させて,アナログタコグラフならチャート紙に書かせる,デジタルタコグラフならそれぞれに対応するボタンを押させる等している会社も多いようです。

この場合は,拘束時間から休憩時間を引いた実労働時間もわかることになります。

ただし,上記の申告については,行政から過密運行を指摘されたくない等の理由で,実際は積み下ろし等の作業をしている時間についてまで「休憩」と申告させている事業者もあるようです。

この場合,書類上は休憩時間が増え実労働時間が減ってしまうわけで,残業代請求の上では不利な証拠となります。

もっとも,その時間に実際は休憩ではなく作業をしていたことの立証ができる場合もあるので,「休憩」と申告したら必ず休憩と認定されてしまうわけではありません。しかし不利な証拠であるのは間違いないので,このような虚偽申告には協力しないのが賢明でしょう。

とはいえ,弱い立場にある労働者としては,雇い主に言われたら断りきれないという場合も多いと思われます。

その場合は,全ての停車時間について,実際は何をしていたのかを,その都度逐一メモしておきましょう。これも一定の証拠になります。

このように,トラック運転手の労働時間の立証は,停車時間について不確定な部分はあるものの,拘束時間についてはほとんどの場合,タコグラフという客観証拠から立証できるわけで,これは労働者にとって非常に有利な材料です。

これが,私が冒頭で,トラック運転手の残業代請求について「取り組みやすい」と述べた理由です。

他の業界では,そもそも拘束時間の証拠がない,というところでつまづいてしまう場合もありますからね。