PCの遠隔操作によって犯行予告がなされ、遠隔操作された被害者数人が誤認逮捕されてしまった事件の「真犯人」が逮捕されたとして、ここ数日の話題をさらっていますね。

既に各方面から指摘されていることですが、

この事件で怖いのは、誤認逮捕された元被疑者4名のうち2名の方が、身に覚えのない犯行を「自白」してしまっていること

です。

歴史を振り返れば、冤罪の多くが、捜査機関が被疑者に虚偽自白をさせ、裁判所がこれを安易に信用したことによって生み出されており、

「人はやってもいない犯罪を自白するはずがない」という思い込みに根拠がないことは、法曹関係者なら誰でも知っている常識

です。

しかし、それにしても、共犯事件でもない独立の犯罪の被疑者とされた4名のうち2名が「自白」という今回のケースは、弁護士でも人によってはちょっと驚いてしまうレベルなのではないでしょうか。

少なくとも私は少々驚きましたし、「虚偽自白は数としてはよくあることだが、割合的には例外的ケースである」という、これまで私が抱いてきた甘い甘い認識を改める必要に迫られている次第です。

今回の「真犯人」とされる被疑者は容疑を否認しているそうで、警察にもマスコミにも我々世間にも慎重な態度が求められると思うのですが、現実には警察もマスコミも、真犯人と決めつける態度に終始しているように見受けられますね。

被疑者・被告人の実名報道一般の是非はここでは措くとして、

捜査機関が間違えやすい難しい犯罪類型であり、現に一度間違えており、かつ新しい被疑者も否認しているというこの状況下で、実名顔晒し報道をするという神経

、私には全く理解できませんね。

もう一つ最近のニュースとして、2月10日に行われた(そして本日2月17日も行われているはずの)新大久保における朝鮮人排斥デモがあります。

「良い朝鮮人も悪い朝鮮人もどちらも殺せ」と書かれたプラカードを掲げ、朝鮮人ガス室に送り込め」というシュプレヒコールが上がる等、

日本の恥

としか形容しようがないような、なんとも酷いデモだった模様です。

まあ、今後、在特会的なものが政治的に大きな影響力を持ってくるようになるのかというと、私にはそうは思われないので、政治的にはスルーしてもよい案件なのかもしれません。

しかし、わざわざ朝鮮系市民の集まる新大久保に出かけていって「朝鮮人を殺せ」などといったヘイトスピーチを発するという行為は、仮に政治的に無力であっても、ヘイトスピーチの対象者にとっては暴力そのものであるわけで、今後、このような暴力的行為を許容しないため、一定の悪質なヘイトスピーチを規制する立法が必要となってくるのではないかと思います。

勿論、言論の自由との調整の問題はありますが、名誉毀損表現やわいせつ表現が現に規制されていることとの均衡を考えても、対象行為の範囲を可能な限り明確かつ限定的に絞り込んで立法するのであれば、今回の在特会デモのような特に悪質な行為は、合憲的に規制できるものと思われます。

ところで、ヘイトスピーチ規制立法の是非は措くとしても

「なぜ立法が必要なのか、現行法で在特会をしょっぴけないのか」

「イタズラでネット犯行予告をすると捕まって卒業文集まで晒されるのに、朝鮮人を殺せと言ってデモをしても捕まらないのは不思議である」

といった疑問をネット上で複数目にしました。

この点、私も今まであまり考えたことがなく、ちょっと考えてみたので、以下に述べておきます。

散見されたのは、「脅迫罪が成立するのではないか」(ネット犯罪予告でもしばしば適用されていますね)という疑問ですが、

結論からいうと、脅迫罪は難しい

でしょうね。

脅迫罪における「脅迫」行為とは、噛み砕いて言うと、

特定の人またはその親族の生命、財産、身体、名誉、自由に対して害悪を加える旨の告知であって、かつ、一般の人が被害者の立場に立ったときに不安感・恐怖感を抱くに足りると認められる程度のもの

と定義することができます。

しかも、告知される害悪は、告知する人が左右できるものとして告知される必要がある(現実に左右できるか否かは問わないが)、と解されています。

そうすると、不特定多数のグループである「朝鮮人」全てを「殺せ(殺すではなく)」と、一般国民に対して呼びかけるという体裁をとって行われた「朝鮮人を殺せ」とのヘイトスピーチは、客体の特定をいう観点からも、害悪の告知といえるかという観点からも、「脅迫」にはあたらないということになりそうです。

刑罰法規で次に考えられるのは、脅迫罪と同様ネット犯罪予告でもしばしば適用される威力業務妨害ですが、こちらについては、形式的には問題なく威力業務妨害罪の構成要件を充たすと思います。

在特会が、故意に、威力を用いて、新大久保の商店主等の業務を妨害していることは明白ですので。

ただ、ここで問題なのは、

そもそもデモという示威的な表現行為自体が、多かれ少なかれ威力を用いて他人の業務を妨害する性質を有する

したがって、デモが表現行為として憲法21条の保障の下にあることを承認する限り、威力業務妨害罪による取締は、デモに譲歩せざるを得ない

ということでしょう。

勿論、「デモのうち、威力の程度が度を超えたものだけを威力業務妨害罪で処断する」という運用も考え得ないわけではないですが、現行法においても、デモに名を借りて暴行・傷害に及んだような場合には普通に捕まるわけで、するとここで問題になっているのは、「デモに伴う、暴行に至らない威力を、威力業務妨害罪で取り締まって良いか」という、きわめて微妙な話になってくるわけです。

こうなると、

取り締まられる威力とそうでない威力との間に、表現の自由に萎縮効果を与えない程度に明確な線引きをすることなど不可能としか思えないので、威力業務妨害罪の適用もするべきではない

であろう、と言わざるを得ません。

ついでに付け加えておくと、いわゆる迷惑防止条例によって取り締まるという運用については、威力業務妨害罪と基本的に同様の(ただしより強い)理由でダメ、ということになると思います。

結局、在特会みたいなのをしょっぴくためには、立法的解決を待つしかない、ということかと。

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