1.  度重なる無断駐車被害

私の事務所には、契約している駐車場が1台分だけある。来客が利用したり、私が車で出勤したときに停めたりする。

土日に出勤すると、しばしばここに無断駐車がされている。

平日の被害はほとんどないことから、「土日は休みだから誰も来ないだろう」という思い込みがあるのだろう。残念ながら弁護士は、むしろ土日も働くことが多い職種だ(本当に残念だ)。

さて、5月6日の土曜日に私が車で事務所に行ったら、また無断駐車がされていた。フォルクスワーゲンだった。

私は従来は、何度無断駐車をされても泣き寝入りしてきた。

しかし、このときは、ゴールデンウィークも仕事でむしゃくしゃしていたので、ふと、「他人には権利行使を勧める弁護士のくせに泣き寝入りを続けるのもよろしくないのではないか」という気持ちになった。

そこで私は、車の主に損害賠償請求をすることに決め、フォルクスワーゲンが駐車されている様子とナンバープレートを撮影した。

2.  弁護士会照会による車両所有者の特定

弁護士は、所属弁護士会を通じた照会によって、各種機関からさまざまな情報を取得することができる。

この制度は、弁護士法23条の2に基づくもので、「弁護士会照会」とか「23条照会」とか呼ばれている。

この照会制度により、自動車のナンバーがわかっていれば、管轄の運輸支局に照会して、その自動車の所有者などの登録情報を取得できるのだ。

ただしこれはあくまで弁護士の職務のために照会する制度だから、私自身が被害者である事件について私が照会することはできない。

そこで同僚の弁護士に依頼し、代理人になってもらうことにした。

5月15日頃に千葉県弁護士会に照会申出書を出し、1か月強が過ぎた6月20日に回答があって、無事フォルクスワーゲンの所有者の氏名住所を知ることができた。

加害者は、私の事務所が入居するビルのマンション部分に住んでいる人だった。

3. 損害賠償請求

加害者が同じビルの住人と知って、「困ったな」というのが正直な感想だった。

「良き法律家は悪しき隣人」などということわざもあるが、弁護士でもご近所付き合いは多少は気にする。

あまり角も立てたくないが、今さら泣き寝入りするのも面白くない。

そこで以下のような方針を立てた。

  • 請求額は控えめにする。
  • 加害者に送る手紙の文面はソフトな文面とし、二人称も普段用いている「貴殿」ではなく「★★様」とする。
  • 内容証明ではなく特定記録郵便で送る。

この方針に沿って加害者宛の書面を作成し、6月23日に特定記録郵便で送った。

送った書面のPDFを貼っておく。個人情報を匿名化した点を除き、実際に送ったものと同じ内容だ。

結局、弁護士会照会手数料などの実費に、この件に費やした人件費相当額を加えて25,503円だけ請求した。

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4. 解決

6月29日、私が事務所を留守にしている間に加害者から電話があった。謝罪の言葉とともに、請求額満額の賠償の意思を示されたとのことだった。

そして、本稿を執筆している6月30日、25,503円が私の指定した口座に振り込まれた。

加害者が常識のある方で、円満に解決することができ、安心している。

5. 無断駐車対策はなかなか難しい

① 弁護士に依頼するのはコストに見合わない場合が多い

このように弁護士を使えば車両の所有者を特定して損害賠償請求をできるが、通常はコストに見合わないだろう。

日本の法制は懲罰的損害賠償を認めていないから、損害賠償請求により回収できるのは、被害者が実際に被った損害に相当する額だけだ。

そして、数時間程度の無断駐車で生じる損害額はたかが知れている。

さすがに1万円とか2万円で依頼を受けてくれる弁護士はいないだろうから、費用だけで足が出てしまう可能性が高いと思う。

では他に実効的な救済方法はないか。実はこれがなかなか難しい。

よくある無断駐車対策は、法的には無理なものばかりだからだ。

②予め定めた「罰金」を取ることはできない

駐車場に、「無断駐車は罰金★円いただきます」などと掲示されている例は大変よく見る。

しかしこれには法的根拠がない。

まず、駐車場の管理者が文字どおりの「罰金」を徴収する権限を持つかだが、これはあるわけがない。

文字どおりの「罰金」というのは、違法駐車した人の意思に関係なく、制裁のため一方的に取り立てる金銭のことだ。国家機関でもない駐車場の管理者が、そういう金銭を徴収する権限を持つということはあり得ない。

それでは、契約を根拠に徴収できないか。結論からいうとこれも無理だ。

契約の成立には、双方の意思の合致を必要とする。

無断駐車をする人は、まさに無断かつタダで駐車をする意思であることが明らかなわけで、無断駐車をする人と駐車場の管理者の間に契約が成立するということは考えられない。

このように、駐車場の管理者は、無断駐車者から一方的に罰金を取ることもできないし、契約を根拠として取ることもできない。

結局、「無断駐車は罰金★円いただきます」との掲示はムダと結論するほかない。

③ 自動車を足止めするなどの実力行使もできない

タイヤをロックするなどの方法で自動車を足止めしてしまうという対策もよく聞く。実際、「無断駐車を発見したときはタイヤをロックします」などと掲示されている駐車場も散見される。

しかしこれも法的には無理だ。

日本に限らず広く法治国家においては、「自力救済の禁止」という大原則がある。

たとえ権利を侵害されたとしても、国家機関によらずに実力で権利回復をすることは許されないという原則だ。

自力救済は、原則的に違法行為とされる。

無断駐車の車をタイヤロックなどで足止めしてしまうというのは自力救済の典型で、完全に違法だ。

あべこべに損害賠償請求されることになりかねないから、絶対にやってはいけない。

足止めに限らず実力行使は違法だから気をつけよう。

④ まとめ

このように、無断駐車に対しては、適法かつ実効的な救済手段がなかなかない。

されてしまうと泣き寝入りになる可能性が高いので、予防に力を入れるのが賢明だろう。

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

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