弁護士は守秘義務があるから担当事件のことは書けない。

以下は仕事ではなく自分の話なのでネタにしてみよう。

古い話だが去年の3月1日に車に轢かれた。

自転車で普通に車道左端を走っていたら、いきなり左折してきた車に巻き込まれたのだ。当然ながら派手に転倒し、身体は路上に投げ出された。

幸い骨折したりはしなかったが、左手首をしこたま挫いてしまった。

しばらく自転車にも乗れなかったし、何よりタイピングに支障が出たのは仕事に差し障りがあり困った。

治療は案外長引いて、6月28日まで病院に通っていた。最終通院の時点ではまだ痛かったのだが面倒になって通うのをやめてしまい、7月下旬頃には自然と治ったと思う。

当時、裁判基準で私が取れるはずの損害賠償額を算定してみたら、既に支払われている治療費を除いて70万円強になることがわかった。

請求しなければと思っていたが、依頼者のことに比べ自分のことは優先順位が低いから放置してしまっていた。

そうしたら今年の2月13日になって、保険会社から賠償額の提示が届いた。

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見てのとおり、約16万円をくださるとの内容。私が弁護士だと知っていてこの提示だから笑える。

早速保険会社に対して書面を送り、裁判をすれば70万円以上になること、私は弁護士だから理由のない譲歩をするつもりはないこと、早期解決のメリットを考慮しても60万円は譲れないこと、60万円を少しでも下回るなら訴訟をすることを通知した。

すると保険会社から電話がかかってきて、40万円くらいにならないかとか言う。

「あ、わかりました。では訴訟しますね。本人訴訟も一度やってみたかったので」

「いやそれは。もう一度持ち帰って検討します」

さらに2往復くらいやり取りがあって、結局先方が折れ、ぴったり60万円が支払われた。


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裁判をすれば私が勝つことは目に見えており、ある程度値引きもしてあげているのだから、先方が折れるのは当たり前だ。突っぱねて訴訟になっても保険会社は損しかしない。

しかし世の中の交通事故は、法律家が関与しないまま、被害者の無知に乗じて、当初提示の16万円みたいな不当な金額で示談に至るケースの方が圧倒的に多いわけであろう。

弁護士は魔法使いではないから、黒のものを白にしたりできるわけではない。*1

弁護士が素人と最も違うのは、法的紛争の行く末を予測できるという点だろう。

訴訟をすれば70万円取れると知っているのに16万円で妥協する人は普通いない。

訴訟をすれば70万円取れると知っている相手にあくまで16万円でゴリ押そうとしてくる人も普通いない。

このように、訴訟で判決までとことんやった場合の帰結がある程度見えているから、そこから逆算して訴訟しない場合の落としどころも見出だせる。

交通事故に限らず、これが法的紛争のプロである弁護士の強みだ。

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

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