東本願寺の僧侶に残業代が支払われておらず、労使交渉の結果支払われることになった、という報道に接した。

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残業代不払も、交渉や裁判の結果支払われることになるのもよくある話だ。私にとっては日常業務である。

もっとも、ちょっと目を引いたのは、1973年に作成された労使間の「覚書」に「時間外労働の割増賃金は支給しない」との文言があり、寺側はこの「覚書」に基づいて不支給を続けていたという点だ。

上記のリンクには記載がないが、私が今朝見たテレビニュースでは、僧侶自身もこの「覚書」が有効だという前提で残業代はもらえないものかと思っていたところ、労働組合から「覚書」は労働基準法(以下「労基法」)違反で無効だと教えてもらった、と報道していた。

このような「覚書」は、法律家なら一笑に付すものだ。無効に決まっているからだ。

労働基準法第13条(この法律違反の契約)

この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

この13条により、労基法の定める基準よりも労働者に不利な労働条件を定める契約は無効とされ、労基法の定める基準が適用されることになっている。*1

残業代でいえば、「残業代は支払わないという約束をしたから支払わなくてもよい」という主張は、法的には通る見込みがないということだ。*2

これは労働法の基礎の基礎で、法律家でなくても、ちょっと労働法をかじったことがある人なら誰でも知っている。

しかし、話題の僧侶の残業代の件では、僧侶側がこの基礎を知らなかったから長らく我慢してしまったようだ。*3

素人に法律を詳しく知っておけというのは、もとより無理な話だ。詳しいことは法律家に聞けばよい。

しかし、「自分が受けている仕打ちは違法かも」「お金を取れるかも」と思いつくことができる程度の法的感覚は持っていないと、法律家に相談しようというきっかけも得られないから、結局やられ損になってしまう。

労基法についても、細かいことはとりあえず知らなくてもいいから、13条の効果、すなわち

労働基準法に反する労働契約は無効=労働者が納得してサインしたとしても後から覆せる」

ということだけは覚えておいてほしい。