痴漢を疑われても逃げるべきではない理由 – 弁護士三浦義隆のブログ

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痴漢冤罪問題は刑事司法問題の縮図だ – 弁護士三浦義隆のブログ

痴漢関連の3つのエントリはいずれも反響が非常に大きく、マスメディアからもいくつかの取材や出演依頼があった。

私が一連のエントリを書こうと思ったのは、否認すると安易に勾留されていた昔の実務を前提に「逃げるしかない」という不合理な選択を煽る言説が、ネット上では主流になってしまっていたからだ。

そのために死亡者まで出ていたし、死なないまでも、逃げなければ勾留されずに済んだのに、逃げたがために勾留されてしまって人生を狂わされるケースは沢山あるに違いない。

別に私は痴漢「冤罪」の場合に限って記事を書いたつもりはない。痴漢の真犯人であれば適正な手続によって刑罰を受けるのは仕方ないが、刑罰以外の余分な身柄拘束とか社会的制裁とかは、避けられるなら避けてほしい。

有罪判決前の身柄拘束(逮捕・勾留)は、犯した罪に対する制裁ではない。

この点は基本中の基本だが、一般の方は案外混同しがちなようだ。

罪を犯したかどうか、罰を与えるかどうか決めるのは裁判だ。被疑者・被告人が裁判をきちんと受けてくれないと困るから、逃亡や罪証隠滅のおそれがある場合に、そうしたおそれを除去するために必要な限度で身柄拘束が認められているだけ。

だから、真犯人であっても、逃亡や罪証隠滅のおそれがない状況なら勾留されるべきでないし、本人も無用の勾留を避けるように賢く立ち回ってほしい。そう考えるのは弁護士として当然のことだ。

逆に言うと、痴漢被害者がどんなに苦痛を感じ、怒っているとしても、逃亡や罪証隠滅のおそれがないのに「勾留されて人生台無しになってほしい」と要求するのは、はっきり言って不当だ。裁判を受けて処罰されてほしいと要求するのはもちろん正当だが、被疑者が勾留を免れることに文句を言うのは筋違いである。

私はこのような考えに基づき、痴漢の真犯人であってもなくても、疑いをかけられた人が余分な不利益まで受けることのないよう、リスクが高い「逃げろ」というネット通説を正しい知識で上書きする必要があると思った。

それで書いたのが一連のエントリだが、何しろ大きなメディアでも取り上げてくれたので、それなりに目的は達成できたと思う。

ただし、参考にしてくれた方が大勢いた一方で、根拠も示せないのに「逃げるしかない」と言い張る人もそれなりにいた。聞く耳持たない人を説得することはできない。その点で限界も感じたのはたしかだ。

今回の件で、代替医療や疑似科学と闘っている医療者や科学者の気持ちが少しわかったように思う。

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

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