少し前に、Twitterの法曹クラスタの間で、不貞慰謝料の相場と、相場を大きく超える慰謝料請求の是非が話題になった。
相場を大きく超える額、例えば500万とか600万とかをダメ元で請求することが弁護士として妥当か否かについては賛否が分かれた。
しかし、相場はいくら程度かという認識自体は、概ね皆一致していたと思う。
ざっくりまとめると、
・不貞慰謝料は近年低額化の傾向
・不貞が原因で離婚した事案と離婚しない事案で大きく額が異なる
・離婚事案でも普通は200万程度。近年は200万を下回る事案も目立つ。悪質な事案では200万を超えてくる場合もあり、上限は300万程度だが、200万超えは例外的
・離婚しない事案では概ね50〜100万程度。100万超えは例外的
相場はこんな感じだろう。
しかしネット上の情報を探すと、例えば「300〜500万」というように、実際の相場よりも高い額を述べるものが散見される。
その多くは執筆者が弁護士ではない、素性のよくわからないサイトだ。
これらは探偵事務所絡みのサイトが多いと思われる。
探偵事務所の不貞調査の料金はなかなか高額だ。私の見てきた範囲では、比較的安くあがった人でも50万円程度。なかなか証拠をつかめず複数回の調査を要した人だと150〜200万円程度支払っていることも稀ではない。
現在の不貞慰謝料相場を前提とすると、探偵事務所に不貞調査を依頼した場合は、仮に慰謝料を取れても金銭的には得にならない可能性が低くないということだ。
なお慰謝料とは別枠の損害として探偵費用を認める例もあるが、これも実際の支払額のごく一部しか認められないことが通例。
このような事情から探偵事務所には、真実に反して高額の慰謝料相場を吹聴するインセンティブがある。
俺(探偵の報告書を見ながら)「バッチリ撮れてますね。いくらかかりましたか」
— ystk (@lawkus) 2017年3月18日
相談者「150万ほど」
俺「慰謝料は50〜100万しか取れませんよ」
相「えっ」
俺「探偵が300〜500万とか言いましたか」
相「はい…ところでお金ないので着手金無料になりませんか」#弁護士あるある
弁護士だって商売上は高額の相場を吹聴するインセンティブがあるといえばあるのだが、いくら弁護士余りで競争が激しくなっているといっても、なお職業倫理は高い部類の業界だと思う。
嘘をついてまで客を取ろうとする弁護士はなお少数派だろう。
私自身、不貞慰謝料請求の依頼はよく受けるが、率直に相場を説明し、費用で足が出るリスクがある場合はその点も説明して、よく理解してもらってから受任することにしている。
まあ弊所の報酬は比較的安めに設定しているから、不貞の立証ができるのに弁護士費用だけで足が出るということは通常はないが。
不貞慰謝料を請求したい場合、特にそのために探偵費用など多額の費用をかけるか否かの意思決定をしなければいけない場合は、探偵事務所とか、その他自称法律に詳しい人に相談するのではなく、弁護士に相談されるようお薦めしておく。
弁護士 三浦 義隆
おおたかの森法律事務所