蓮舫氏が戸籍を公開することにしたようだ。
私は、蓮舫氏であれ誰であれ、手続の失念などにより二重国籍状態のまま国会議員になった人がいたとしても、騒ぐような問題ではないという考えだ。
もちろん国籍法14条違反の問題はあるから、二重国籍状態が判明したら速やかに国籍選択の手続を行う必要はあるだろう。しかし、このような軽微な違法をことさらに重大視して蓮舫氏を非難し、戸籍という秘匿性の高い情報の公開まで要求する言説は、差別的としか思えない。
そこで私は、蓮舫氏の戸籍公開はする必要がない、それどころか「してはならない」と考えていた。選良たる国会議員、それも第二党の党首がこのような差別的な要求に屈して、戸籍を公開させられる前例を作るべきではないからだ。
だから私としては、今回蓮舫氏がしたとされる戸籍公開の決断は、事実ならば残念だと思う。
しかし蓮舫氏を責める気にまではなれない。
政治的な説明責任というのは、法的責任のように発生要件と効果が予め定まっているようなものではない。
有権者が重要だと考える場合には基本的にどんな事項でも説明責任の対象とされるから、些末な事項について政治家が執拗に説明を要求される事例には、今回初めて接したわけではない。差別主義者であっても有権者は有権者なので、戸籍の公開を求める声がそれなりに多いなら、これに応じるという政治的判断もあり得ないものではないだろう。
民進党内からもだいぶ突き上げがあったようだ。党内での権力闘争はあってもよい。しかし、外部から不当な要求がなされたときまで自分たちのリーダーを守らず、むしろ不当な要求に同調してこれを党内抗争に利用するという態度はいかがなものか。率直に言って民進党には呆れている。
このような党内外の圧力から、蓮舫氏は望まぬ戸籍公開に追い込まれた面があるだろうし、その点には同情する。
ただし、前に述べたように、蓮舫氏の戸籍公開は、蓮舫氏一人が我慢すればすむ種類の話ではない。公人中の公人である蓮舫氏がこのような前例を作ってしまうと、今後の政治にも、ひいては世間一般にも悪影響が及ぶ可能性がある。
だから蓮舫氏には突っ張ってほしかったのだが、もう公開することに決めてしまったなら仕方ない。
その代わり、せめて蓮舫氏には、今後行われるであろう説明の会見において、以下の点を明確に述べることを期待したい。
- 今回は政治的判断として公開することにしたが、本来は戸籍公開の必要などないこと。
- 蓮舫氏の戸籍公開を前例としてはならないこと。誰も他人に戸籍の公開など求めるべきではないこと。
政治家は有権者に媚びればよいというものではない。ときとして有権者を説得し、社会の意識を変えていくのも政治家の責務のうちだろう。
手続ミスについては詫びてもよいが、せめて上記のような点については毅然とした態度を示してもらいたいと思う。
現実的には難しいかもしれないが。
弁護士 三浦 義隆
おおたかの森法律事務所