刑事事件について、「国選弁護人は手抜きをする」との風評が一部にある。

結論からいうと、この風評は誤っている部分が大きいが、全面的に誤りともいえない。

そこで簡単に解説しておきたい。

1.多くの弁護士は私選でも国選でも真面目にやる

1-1.国選でも私選でも手抜きはできない

「国選は手抜き」と聞くと、「同一の弁護士でも、私選は真面目にやるが国選は手抜きをするという使い分けをするので弁護の質に著しい差が生じる傾向がある」という意味にとる人が多いだろう。

このような傾向が一般的にあるかというと、答えはノーだ。

国選弁護の報酬はきわめて低廉だ。私選の場合の相場と比べると、ざっと3分の1~5分の1程度だろう。

したがって、国選弁護について収益業務という感覚を持っている弁護士はあまり多くないと思われる。よほど売上に困っている弁護士とか、勤務弁護士で事務所経費なども負担しておらず給与も保証されているためお小遣い感覚という弁護士を除けば、ボランティア感覚、滅私奉公感覚という人が多いだろう。

しかし、国選でも私選でも弁護人の義務に差はない。手抜きをして依頼者に損害を与えれば賠償責任が生じる場合もあるし、懲戒のリスクもある。

このように低廉な報酬で基本的には私選と義務を負うのが国選だが、弁護士もそのことは承知している。

承知した上で国選弁護人の名簿に登録しているのだから、手抜きをしてはいけないし、私の観察の範囲では、実際に多くの国選弁護人は手抜きをしていない。

もっとも、一般論として「国選の場合だけ手抜きをする弁護士が多い」とはいえないとしても、一部にそういう不届きな弁護士がいる可能性までは否定できないが。

1-2. 付加的サービスに差がつくことはあるかも

上記のとおり国選でも手抜きは許されない。

しかし、弁護人が同一の人物なら国選と私選で全く差のないサービスを受けられるのかというと、必ずしもそうとは限らない。

弁護人としての義務とまではいえないレベルの、いわば付加的なサービスの部分について、私選の方を手厚くすることは許されると一般的に考えられている。

この点は弁護士ごとの方針にもよるから一概にはいえないが、例えば勾留中の被疑者から

「自宅に立ち入ってペットに餌をやってほしい」

とか、

「自宅に置いてあるキャッシュカードの暗証番号を教えるから、立ち入ってカードを回収した上、お金を下ろして示談資金にあててほしい」

とか頼まれた場合、弁護人としてはリスクが高いので断るという判断はあり得る。

そのような行為まで弁護人の義務として当然に行わなければならないとはいえないから、断ったとしても懲戒されたりする心配はないだろう。

このように弁護人だからといって必ず行う義務があるとまでいえない行為については、「国選なら断るが私選なら行なう」という判断の余地が出てくる。*1

繰り返すが、上記の例はあくまで例である。このような事項について全ての弁護士が差をつけているというわけでなく、最終的には個々の弁護士の方針による。

2.国選は弁護士を選べないのがリスク

上記のように、同一の弁護士に着目した場合には、少なくとも一般的には「国選だと手抜きをされる」とはいえない。

しかし、刑事弁護についてとんでもない手抜きをする弁護士が少なからずいるのは、残念ながら事実だ。

接見には全く、あるいは一度しか行かず、被害者がいる犯罪でも被害弁償のための交渉もせず、起訴されても保釈請求もせず、証拠が開示されても閲覧謄写もせず、公判の被告人質問では被告人に説教をするだけ、そして弁論では「寛大な判決を」と言うだけ。

そういう弁護活動をする弁護士は実在する。*2

 そして、国選弁護は登録弁護士の名簿から機械的に配点されるシステムになっているから、弁護士を選ぶことは当然できない。

たまたま一流の刑事弁護人が選任されるという幸運もあるかもしれないが、最低の弁護人が選任されるという不運もあるかもしれない。引いてみなければわからない。

この点においては、国選弁護は被疑者・被告人にリスクのある制度だ。

このようなリスクを避けたいのならば、好きな弁護士を選んで私選で依頼するしかない。*3

3.弁護士の良心に依存した制度は持続可能か

国選弁護の報酬がきわめて低廉であることは既に書いたが、絶対的に低廉というだけではない。

基本的に、国選の報酬体系は、「頑張れば頑張るほど損をする」ように設計されているのだ。

詳しい説明は、

国選弁護事件で稼ぐ方法 – 刑裁サイ太のゴ3ネタブログ

がわかりやすいので参照いただきたい。同エントリは、国選を収益業務として考える場合には手抜きが合理的行動になってしまうことを指摘している。

このように国選弁護の報酬体系が、絶対的にも低い上に真面目にやるインセンティブを生じない(むしろ手抜きのインセンティブを生じる)ように設計されていても、現状では多くの弁護人が真面目にやっているのは前記のとおりだ。

これは多くの弁護士が、経済的インセンティブよりも職業的良心にしたがって行動しているからだ。

しかし、弁護士が大増員され、充分に仕事を取れない弁護士も少なからず出現している時代に、弁護士の良心に依存する制度がそのままで持続可能だろうか。

「国選弁護人は手抜きをする」が正しくなってしまうことが将来的にもないよう、報酬基準の見直しが必要だと私は考えている。

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

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